そうは言っても

重箱の隅をつつくタイプのブログです

アトモキセチンを一度飲めば

 ここ半年ほど、ADHD(注意欠陥多動症)のためにアトモキセチンという薬を飲んでいます。

 はっきり言うと、効果は微妙なところです。投薬のおかげで助かることもある反面、とても困ることも多い。今回はその点について書きます。

 そもそもADHDというのはどのような病気なのか、説明するのは難しいです。発達障害の定義というのは医師によってわかれることもあるのですが、DSM-5(アメリカ精神医学会が発行する診断マニュアル)によると、「不注意、多動性、衝動性を中核症状とした神経発達障害に分類される代表的な脳機能障害」となっています。噛み砕いていうと、「ぼんやりしたり、めちゃめちゃに動いたり、いきなり行動する脳の障害」です。脳神経伝達物質の伝達に異常があって発生するとされているが、ではなぜその異常が発生するか、というのはいまひとつよくわかっていません。

 私は不注意も多動性も衝動性も強いが、とくに困っているのは「すぐ忘れる」ことでした。人の指示を聞けない。聞いても忘れる。メモをとっても指示の内容とさっぱり合っていない。子供の頃は自分には妖怪が取り憑いていて、メモの内容をせっせと書き換えているとすら思っていました。

 学校でも提出物や授業への出席でしょっちゅうミスを繰り返しましたが、会社に入ったらもっと困ったことになりました。勉強でも事務でもそうですが、ひとつのミスはそこで留まらないのです。「書類を無くす→探して遅刻する→会議に遅れる→また慌てて大事な書類を落とす」みたいなことが月一であると、さすがにまわりの人も多目には見てくれない。家の近くにあるメンタルクリニックでこれまでの生活を20分ほど話すと、「ADHDの疑いが濃厚」と診断され、薬を飲むことが決まりました。

 ADHD薬物療法は精神刺激薬と非精神刺激薬の二つに分類されます。精神刺激薬としてはメチルフェニデート徐放剤の「コンサータ」、非精神刺激薬としては選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の「ストラテラ」が処方されます。この二つはどう違うかというと、メチルフェニデート徐放剤は中枢神経を直接刺激し、脳の働きを良くするのですが選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のほうは、シナプス前終末から出された神経伝達物質が、受容体にすぐ届くようになるために、シナプスにもう一度取り込まれるのを防ぎます。

 微妙な例えですがこの薬はどちらも川の流れを良くするための土木工事のようなものです。メチルフェニデート徐放剤のほうが水の勢いを強くしてしまう直接的な工事なら、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬は川のまわりのゴミをとりのぞいて、進路を調節するような回り道の工事です。当然直接的な工事のほうが速く確実に効きます。お値段のほうも反映されていまして、保険適用されてもなかなかの価格です。

 もうひとつ決定的な違いとして、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬の「ストラテラ」はジェネリックである「アトモキセチン」が販売されています。これなら相当お安くなりますので、私はこちらを服用しています。それでも他の診療科の薬と比べれば高いですね。

 それでは飲んでみた感想をまとめていきます。

 よかった点

・すぐ眠れるようになった

 今までは布団に入っても気分が落ち着かず、すぐには眠れませんでした。服用後は布団に入るとものの10分程度で眠れるようになり、睡眠時間の量・質ともに向上しました。

・気分のざわつきが減った

 仕事から帰って、食事をして、さああの用事に取り掛かろう……と思っても、全く関係ないことが気になって何もできないこと、ないですか?前は毎日そんな感じで、だいたいネットニュースを見てはまったく自分に関係ないことに気を取られて、怒ったり焦ったりしてました。服用後はそもそもネットニュースを見たいと思う頻度が減りました。見てもさほど頭には入らない。読んだりすることはできるんですが、「まあそういうこともあるよね」程度で流せるようになりました。

・字が上手くなる

 これは若干なのですが、手を細かく動かせるようになった気がします。字もそれなりに上手くなりました。上手くなったというか、「とめ、はね、はらい」を見本通りに真似できるおかげで読みやすくなります。

・ゆっくり落ち着いて話せる

 ADHDのみんながみんなそうだとは言いませんが、だいたい早口です。しかも自分が言いたいことをひたすら話すから内容が伝わらない。服用するとそもそも口の回りが遅くなって、内容も整理されている気がします。

 

困った点

・飲みづらい

 そもそもアトモキセチンは容量にもよりますが錠剤がでかい。これを飲むだけでもなかなか辛い。しっかり食事したあと、すぐにコップたっぷりの水でゆっくり飲みましょう。下手すると喉につまります。

・とにかく気持ち悪い!

 慣れるまでは毎晩マーライオンのように吐いていました。症状は人によりますが、私の場合はだいたい飲んで一時間くらいすると、息がしづらくなって、脈が速くなって、冷や汗が出ます。

・お腹が張る

 便秘の苦しみを初めて体験しました。とにかく張る、そして出ない。それがいやで水をがばがば飲んでしまいます。春日武彦のエッセイで「精神科の患者はやたらと水を飲む」と書いてあり(実際、多水症という症状は精神科医の間で問題視されています)、頭では知っていたのですが、まさかこんなに水が欲しくなるとは。水を飲んで腹痛に耐えていたりすると、「一体なにやってんだろう?」という気分になることもしょっちゅうです。

・なにもしたくない

 飲んでしばらくは体が動かない。もうぼーっと横になってしまう。ビニール袋に入れられて車酔いになっている感じがします。そりゃ多動はおさまるよね。

・人付き合いが悪くなる

 家族に対して無愛想になります。まあいつもうるさいから静かにしてくれと言われているので、これくらいのテンションのほうがいいのかもしれませんが……。LINEで「飲み行かない?」のお誘いが来ても秒速でお断りしてしまいます。誰かと会って話すのが面倒で仕方がない。

期待したほどではなかったこと

・短期記憶

 まあ総合的にミスは減りましたが、メモの間違いとか、「えーと、なに持ってくるんだっけ?」となる頻度はさほど減ってません。

・ぼんやりした感じ

 減ってはいるのです。夜しっかり眠れるので。ただ興味がないことで居眠りしたり、ふと気がついたらものすごく時間が経ってることはしょっちゅうです。

 あらためてふりかえると、アトモキセチンの服用というのは積み木を重ねていくようなものだと思います。ひとつの積み木を安定させると上も安定していく。最終的には全体が堅実になるのです。反面、そうなるまでは時間と手間がかかる。その覚悟をして服用したほうがいいでしょうね。